注意欠陥多動性障害(ADHD)
発達障害の一つで、発達水準からみて不相応に注意の持続時間が短い状態がある「不注意症状」や、順序だてて行動することが出来ない、落ち着かない、過剰な活動性などの「多動性」、行動の制御が出来ずよく考えないで即座に行動に移してしまう「衝動性」が持続的にみられ、そのために日常生活に困難が起こっている状態です。12歳までに症状があることがほとんどで、幼少期や学童期の様子の問診をとることが重要となります。ただし成人になってから、仕事や家事をやり始めて、マルチタスクが困難となりケアレスミスが続き、苦手さを自覚して受診される方も多いので、グレーゾーンや併存疾患との鑑別も含めていつでもご相談ください。
原因
原因と考えられているものは、生まれつきドーパミンやノルアドレナリンといった神経伝達物質の作用が不足しているため、それに関連して脳の機能の調節に偏りがあるという仮説があります。
治療
❶ 心理社会的ケア
一番重要なことは、特性を正しく理解することです。心理検査をすることにより、ご自身の特性の理解が深まり、より得意な事を発揮できる環境の調整や、苦手さをどう工夫しながら生活しやすくするかについて話し合います。ADHDの方は、好きなことに没頭すると素晴らしい成果を出すこともあり、社会で活躍されている方も多いです。より自分らしく生きるために、特性理解を深めて周囲にも理解してもらえるよう話し合うことが重要です。
❷ 薬物療法
薬物療法も有効です。当院では、アトモキセチン(ストラテラ)、インチュニブ、コンサータの薬物療法をご提案しています。アトモキセチンの効果としては、脳内のノルアドレナリンという物質を増やすことで、症状を改善します。副作用に吐き気はありますが、3種類の中では第一選択になることが多く、不安症状や抑うつ状態が併存していても使用しやすいのが特徴です。インチュニブの効果としては、α2Aアドレナリン受容体を刺激することで、症状を改善します。副作用に徐脈や低血圧がありますが、多動性や衝動性の軽減だけではなくイライラの軽減などの情動安定作用があります。コンサータは脳内のドーパミンという物質を増やすことで、脳の覚醒度を上げ、症状を改善します。副作用に不眠や食欲不振があること、抑うつ状態が併発している場合は処方できないこと、処方できる医療機関は限られていて、患者様に登録カードの作成が必要で服薬管理が重要になる薬ですが、効果は高く即効性があります。いずれの薬物療法も、医師と相談しながらご本人あった薬剤選択をすることが重要です。
自閉症スペクトラム(ASD)
発達障害の一つで、相手の考えていることを読み取ることや自分の考えを伝えたりすることが不得手なコミュニケーション障害があり、特定のことに強い興味や関心があったり、こだわり行動があることが特徴です。幼少期からその特徴がみられることが多く、3歳までに視線が合わない、笑い返さない、指差しが少ない、模倣が少ない、集団に入っていきにくい、感覚過敏があるなどの特徴があることが多いですが、特性の現れ方が人それぞれであることや、知的に高いと能力でカバーされることも多く、成人になってから初めて診断されることもあります。社会場面で相手の意図していることが分からずトラブルになったり、家族間で相手がなぜ怒っているかわからないなどの悩みを抱えたり、雑談が苦手で社会場面が苦痛になることでご相談に来る方もいます。気軽にご相談ください。
原因
自閉症スペクトラムの原因はまだ特定されていませんが、多くの遺伝的な要因が複雑に関与して起こる場合や、胎内環境や周産期トラブルなどが関連して生じる、生まれつきの脳の機能障害だと言われています。
治療
❶ 心理社会的支援
幼少期や学童期は家庭や療育環境が大切になり、特性を理解してもらえる環境で安心して活動ができることが重要です。思春期になると、親との分離が始まり学校場面での人間関係も複雑になり、進路や余暇活動、自己表現などが相談のテーマになるため、好きなことを支援することがより重要となります。得意な事を伸ばし、苦手さをカバーできる環境選びについて話し合って行きます。成人期は、職場環境や家庭環境における困りを整理して、よりご自身に合った環境調整の相談をしたり、家族間で疾病理解を深めて、具体的なコミュニケーションの取り方について話し合うことも重要です。まずはご自身の状態を正しく理解するために、心理検査を行うことをおすすめしています。
❷ 薬物療法
ADHDのように症状を直接改善させる薬物療法はありませんが、自閉症スペクトラム障害にみられることが多いかんしゃくやイライラ感に対して抗精神病薬や漢方などが使用されることがあります。
統合失調症
頭の中で複数の人が会話するような対話性幻聴などの幻覚や、周りの人から監視されている、嫌がらせを受けていているといった被害妄想、テレビやインターネットに自分のことが流されているといった関係妄想、自分と世界との境界線が曖昧になり、自分の考えがほかの人に伝わっているなどの自我障害が陽性症状といわれる精神病症状です。また意欲が低下し感情が平板化して、認知機能の低下により生活機能の低下などがみられる陰性症状もあります。100人に1人かかるという比較的頻度の高い病気で、10代後半から30代頃に発症することが多いです。
原因
原因は明らかにはなっていませんが、多くの遺伝的な要因が複雑に関連してストレスなどの環境要因が重なり、脳内のドーパミンなどの神経伝達物質の機能障害があらわれて発症すると言われています。
治療
治療法は、薬物療法と疾病教育や服薬指導、作業療法があります。
❶ 薬物療法
抗精神病薬により、ドーパミン受容体に作用して症状を改善させます。種類は沢山あり、抗幻覚妄想の強さや周辺症状に対する効果、副作用に違いがあり、患者様に合った薬剤選択をします。例えば、リスペリドンやインヴェガ、ロナセン、ラツーダなどは、セロトニン受容体にも作用して副作用を抑えつつドーパミン受容体に作用して幻覚妄想を改善させます。体が動きにくくなるといった錐体外路障害や、月経不順といった高プロラクチン血症などの副作用はありますが、抗幻覚妄想作用が比較的強いです。またオランザピン、クエチアピン、シクレストなどは多くの受容体に作用するため、体重増加や高血糖となるリスクはあるものの、抗幻覚妄想作用だけではなく情緒安定作用や睡眠をとりやすくする効果もあります。エビリファイやレキサルティのように、部分的にドーパミンを調整する薬は、アカシジアというソワソワする症状が出ることはありますが、鎮静作用が少なく軽い飲み心地です。大事なことは、ご自身にあった薬剤を見つけて、副作用をフォローしながら、必要な容量で内服をしていくことです。
❷ 疾病教育や服薬指導
病気の性質上、病気だと認識しづらい場合があり、服薬をやめたり、治療にかからなくなることがあります。自己判断で服薬を中断してしまうと、数年のうちに8割以上の確率で再発すると言われています。症状の改善と再燃予防のためには、ご自分に合った内服を継続することが重要なので、まずは何に困りがあるのかを話し合い、改善させるための治療目標を立てることが重要となります。また薬の副作用がある場合は減量したり他の薬剤に変えたりして、安心して内服出来るように話し合うことも大切です。
❸ 作業療法
当院には無いのですが、クリニックや病院によっては、デイケアといった通所先があります。その中で料理やスポーツ、音楽、絵画、農作業などを他者と交流しながら楽しむことや、達成感など感情を表出しやすくする方法です。他者と交流しながら、自分のペースで病気と上手に付き合っていくことが大切です。
双極性障害(躁うつ病)
躁状態または軽躁状態とうつ状態とを反復する精神疾患です。気分が高揚して怒りっぽくなったり、過活動や浪費などにより社会生活に支障をきたす程度の躁状態が1日の大半続くような場合は双極Ⅰ型障害です。一方で、社会生活には支障をきたさない程度の軽躁状態の場合は双極Ⅱ型障害です。うつ状態のときは、1日中毎日憂うつな気分が続き、悲観的な思考や食欲の低下、疲れやすさなどが現れます。双極性障害はうつ病との鑑別が難しいこともあります。特に躁状態を普段の性格ととらえて自覚がない場合が少なくなく、抑うつ状態のときに受診することが多いからです。
原因
双極性障害の原因は明らかになっていません。しかし遺伝子が関与していると言われており、脳の神経細胞同士をつなぐシナプスや神経伝達物質の放出、神経細胞の興奮性の調節に関わる遺伝子とのつながりが指摘されています。
治療
薬物療法とTMS治療、心理社会的治療が重要です。
❶ 薬物療法
抑うつ状態のときに受診が多いですが、抗うつ薬を用いると躁転と言って躁状態を誘発してしまうリスクがあるため、気分安定薬と言って抗てんかん薬や抗精神病薬を選択します。気分安定薬には、炭酸リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピン、ラモトリギンといった抗てんかん薬があります。どちらにも効果があるリチウムや抗精神病薬もあり、アリピプラゾール、クエチアピンやオランザピン、ルラシドンなどが選択肢になります。いずれも躁うつ病のどういった病状かを踏まえて副作用を慎重に評価しながら、適切な薬剤を用いて症状をコントロールすることが重要です。
❷ TMS(経頭蓋磁気刺激)治療
双極性障害の抑うつ状態に適応があります。ただし混合状態や、ラピッドサイクル(病相期間が短く交替する)の場合は躁転リスクがあるため適応外となることもあるので、まずは診察の中で治療経過と病状評価をする必要があります。
❸ 心理社会的治療
薬物療法やTMS治療と並行して行っていくことが大切です。ご自身の状態について学習し、正しく理解することによって、病気を受け入れて症状をコントロールできるようになることが目的です。日々のご自身の状態を記録することや、家族や親しい方に客観的に病状を評価する支援の協力をお願いすることもポイントになります。また病状が安定していれば、対人関係のストレスや、思考のパターンなどを客観的に自己発見するために、カウンセリングも再発予防のために効果的です。
うつ病
うつ病とは日常生活に強い影響が出るほどの気分の落ち込みが続いたり、意欲低下、集中力低下に伴い決断が困難となり社会生活に支障が出たり、悲観的思考や自身に対する無価値観や罪責感、喜びや楽しみの減退、食欲不振や増進による体重の変化、不眠や過眠、易疲労感や気力の減退、死についての反芻思考や自殺念慮が伴うことがあります。
原因
外因性と内因性、心因性に分けられます。
外因性とは、交通事故による頭部外傷や認知症、薬剤性のうつ病などです。内因性とは遺伝や素質が原因となって脳の機能異常にストレスなどが重なり発症すると考えられるうつ病のことです。心因性とは、心理的な明確なきっかけがあり、環境変化や悩み事などの不安が引き金となって発症するうつ病のことです。神経伝達物質であるセロトニンやドパミンの機能低下が関与している可能性があります。ストレスに反応してコルチゾールが過剰に放出されると神経細胞が傷害されることが知られており、うつ病発症に関連していると示唆されています。甲状腺機能意低下症や更年期障害などの体内のホルモンバランスの変動により抑うつ状態となる可能性もあるため、採血検査などはその除外のために重要となります。
治療
外因性うつ病の場合は脳神経内科や脳神経外科にて画像評価による確定診断と治療が必要となります。薬剤性の場合は、ステロイドや一種の血圧降下薬、インターフェロンによる場合があり、薬剤減量もしくは置換について専門医へ相談していただく場合があります。内因性うつ病の場合は薬物療法と精神療法、TMS治療が基本のアプローチとなります。心因性うつ病の場合は、薬物療法と精神療法、TMS治療にて症状が軽減してから、カウンセリングを行い心理的ケアにて回復を促します。
再燃予防のため体の緊張をほぐしてリラックスすることも自助力を高めていく事につながります。
❶ 薬物療法
抗うつ薬によってセロトニンやドパミン、ノルアドレナリンといった脳内神経伝達物質を増やすことで症状を改善させます。
第一選択は選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、その他セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)、ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(NaSSA)、古くからある三環系や四環系抗うつ薬などがあります。
そのほかにもドパミンシステムスタビライザー(DSS アリピプラゾール)、ドパミン部分作動薬(ブレクスピプラゾール)、選択的ドパミン受容体遮断薬(スルピリド)等症状や程度により薬剤選択します。薬剤を3種類試して効果が乏しい場合は薬剤抵抗性の可能性があり、TMS治療をご提案する場合があります。
❷ TMS治療
内因性うつ病と心因性うつ病に対して、薬物抵抗性の方に対してTMS治療をご提案いたします。
薬剤の副作用がある方や効果が不十分で原料希望の方、短期間で症状を改善したい方にお勧めできる治療です。
❸ カウンセリング
薬物療法やTMS治療にて症状が概ね安定したものの、環境に対するストレスや悩み、思考パターンに対してカウンセリングを行い、思考の整理や認知行動療法、心理検査を行いストレス耐性の向上や再燃予防をはかるのに有効です。
月経前不快気分障害(PMDD)
生理前3~10日前から心身に症状が出始める月経前症候群の中でも、精神症状が際立って強く出る場合に月経前不快気分障害の可能性があります。
抑うつ気分(絶望感)、不安緊張感、情緒不安定(涙もろくなったり突然悲しくなるなど)、イライラや怒り(対人関係の摩擦の増加)等の症状が現れ、食行動の変化や睡眠障害が出現し社会機能や人間関係に支障をきたします。
ほとんどの月経周期において少なくとも5つの症状が認められ、月経開始数日以内に軽快し始め、月経終了後にはほとんど症状が消失するのが特徴です。
原因
月経前の黄体ホルモンによる影響の可能性はありますが、原因や病態について完全には明らかにはなっていません。
治療
薬物療法、適度な運動療法やリラクゼーション法などの体のケア、心理社会的治療も有効です。
❶ 薬物療法
薬物療法は加味逍遙散や当帰芍薬散といった漢方を使用する方法や、症状が中等症以上の場合は抗うつ薬(SSRI)が第一選択となります。
毎日内服する場合と、月経開始前2週間のみ内服する方法があります。症状の程度に合わせてご提案いたします。
婦人科では経口避妊薬などの低用量エストロゲン・プロゲスチン配合剤を用います。黄体ホルモン薬のドロスピレノンと卵胞ホルモン薬のエチニルエストラジオールからなる低用量ピルも用いることがあるようです。GnRHアゴニストで卵巣機能を抑制し月経をなくす治療もあります。更年期障害や脂質異常、動脈硬化、骨粗しょう症のリスクは上がります。
❷ 適度な運動療法
適度な運動療法により、骨盤内の血流を改善することで症状の緩和を図ることも大切です。運動が苦手であれば骨盤周囲のストレッチもよいことです。
薬物療法に抵抗がある方や、ご自分でのケアを心掛けたい方には、日ごろのストレスによる心身の緊張をほぐすためのリラクゼーションや体のケアもご提案しています
❸ リラクゼーション法
月経前のいつごろから症状が出やすいのかについて、ご自身で記録をすることにより、疾病理解が深まり対処がしやすくなります。
最近ではアプリもあるため、月経周期を把握することで、月経前の症状にも気が付きやすくなり、予定を入れすぎないようにすることや、体のケアを心掛けることなどで症状の緩和をはかることも重要です。
適応障害
生活の中で生じる日常的なストレスにうまく対処できない結果、抑うつや不安感、イライラ感、集中力低下、などの精神症状や、めまいや動悸などの体調不良等のストレス反応が生じて、遅刻や無断欠勤など社会生活に支障をきたすものです。
原因となるストレスが生じてから1~3か月以内に症状が出現し、ストレスが解消してから6か月以内に症状が改善するとされています。
ストレスが長引く場合には長期間続く場合もありますが、経過を見ていく中で、うつ病や不安障害など診断名が変わることもあります。
原因
ストレスなどの外因的な要素と、ストレス対処力や本来の性格などの内因的な要素が組み合わさって発症します。環境とご本人の不一致から症状が出現します。外因的要素とは、家庭や学校、職場での環境変化や人間関係の悪化、親しい人との離別、本人の健康問題などです。内因的要素は元来の性格や考え方により、ストレス対処や耐性が異なり、周囲からの社会的サポート資源の状況の違いも影響することがあります。
まずは診察にて既存のほかの精神疾患(てんかんやうつ病、不安障害など)の診断基準をいずれも満たさないことを確認し、採血にて甲状腺疾患の除外を行います。
治療
環境調整と対症療法としての薬物療法、カウンセリングや心理検査による対処法の向上があります。
❶ 環境調整
治療で最も重要なことは、原因となるストレスを軽減するための環境調整となります。学校であれば何がストレスになっているのか話し合い、苦手な環境を調整し、保健室登校や転校などで症状の改善が見込める場合があります。職場であれば、ストレス因子との分離のための部署異動などの環境調整の依頼や、業務軽減の依頼などで症状が緩和できる場合があります。すぐに調整が難しい場合には、診断書を作成し休学や休職をする場合もありますが、環境調整の相談をしてから休息には入れればより良いでしょう。
❷ 薬物療法
ストレス反応として抑うつ気分や不安感、イライラ感や不眠などの症状が出ている場合、休息や環境調整にて改善する場合がほとんどではありますが、環境調整に時間がかかる場合などまずは症状の改善が必要な場合に対症療法として薬物療法を用いることがあります。症状に合わせて、なるべくすぐに中止できるような薬剤から開始していきます。抗うつ薬や抗不安薬、睡眠薬が処方となることはありますが、あくまで補助的な役割となります。
❸ 心理カウンセリングや心理検査
まずは内因的要素としての元来の性格や特性、考え方を知っていただくことが重要です。当院ではWAIS-ⅣやAQ-J、ASRSといった心理検査のご提案があります。ご自身の得意や不得意についてや特性の理解を深め、よりご自身に合った環境を選択していく事も適応を改善する重要な要素です。また心理カウンセリングにより、ご自身の考え方を自己発見し、修正的思考を習得することいった認知行動療法なども、ストレス耐性や対処法のスキルを上げる上で有効です。
不安障害
過度な不安を感じて、自分自身でコントロール出来なくなり、社会生活に支障をきたしてしまう状態を不安障害と呼びます。不安障害群の中には、パニック障害、全般性不安障害、社交不安障害、限局性恐怖症など様々なものが含まれます。
❶ パニック障害
突然に起こる動悸や呼吸困難、吐き気やめまいなどの身体的症状が起こり、パニック発作により自分で死んでしまうのではないか、あるいは倒れてしまうのではないかといった急激に高まる不安が伴います。パニック発作は30分以内に多くの場合はおさまりますが、さらなるパニック発作を恐れて予期不安に怯えたり、パニック発作が起きた状況を回避しようとするなど生活全般に支障が生じます。
❷ 全般性不安障害
特定の状況に対して不安を感じるというわけではなく、あらゆるものや活動に対して漠然と不安に感じるようになります。医学的な根拠がなくても自分が何かの病気になるのではないか、家族が事故にあうのではないかといった不安や心配を感じ、不安を払しょくすることが出来なくなり、そのために集中できなくなったり疲れやすさ、不眠、動悸、緊張、発汗、めまいなどの症状を引き起こすことがあります。
❸ 社交不安障害
ご自身が注目される社会的状況(プレゼンや人前での書字)において、極度な不安や緊張感を抱きます。症状としては動悸や赤面、震えや発汗など身体症状も伴います。緊張場面に対しての予期不安や回避行動も見られ、社会生活に支障をきたします。
❹ 限局性恐怖症
ある特定の物や状況に対して極度の不安や恐怖感を感じ、回避したい衝動が出るものです。
動物恐怖症や高所恐怖症、雷雨恐怖症、先端恐怖症、閉所恐怖症など様々です。
原因
不安障害の原因はまだ明らかにはなっていませんが、精神的な気質、環境的なストレス、不安障害の家族歴などの複数の因子が複雑に影響し合い、不安障害が発症すると考えられています。甲状腺機能亢進症などの身体的な病気が原因となり不安が生じることがあるため、当院では採血にて甲状腺機能を評価し、動悸がある場合は心電図を施行します。
治療
薬物療法とカウンセリングがあります。
根本的に不安障害をなくすというわけではなく、日常生活に支障をきたす症状を緩和して生活しやすくすることを目指すものです。
❶ 薬物療法
症状の頻度と程度によって薬物療法の選択が異なりますが、第一選択となるのは抗うつ薬です。SSRIはセロトニンを増やすことで不安症状を改善させ、症状のコントロールをすることで予期不安や回避行動が減り、生活しやすくなることを目指します。抗うつ薬は依存性はありませんが、毎日の服薬が必要となります。症状の頻度が低い場合は、緊張場面だけ抗不安薬やβ-ブロッカーを頓服として処方することがあります。抗不安薬は依存性があるため、頻度が少ない場合に有効です。β-ブロッカーは動悸を改善させますが、喘息の持病がある場合は使用できません。
❷ カウンセリング
不安を感じる状況において、今までとは異なったとらえ方や考え方をし、行動を修正するような認知行動療法や、不安に対する対処スキルを上げる心理療法や自律神経を整える呼吸法などが有効です。社交不安障害に対しては心理検査でその程度を評価することが出来ます。
強迫性障害
強迫性障害とは、不合理でばかばかしいと頭では分かりながらも過度にとらわれ、その不安を解消するために一見無意味で過剰と思われるような行動を繰り返す病気のことです。意思に反して頭に浮かんで払いのけられない強迫観念と、特定の行為をしないではいられない脅迫行動が続き、生活に支障をきたすような状態となります。例えば何度も確認したにも関わらず家の鍵をかけたかどうか不安に思って繰り返し家に戻るといった確認行為、汚物を触ったわけではないのに、手に病原体がついていることを気にして何度も手洗いを続けてしまう不潔恐怖や洗浄、誰かに危害を加えたかもしれないという不安がぬぐえず、事件や事故として出ていないか確認してしまう加害恐怖、自分の決めた手順で物事を行わないと恐ろしいことが起きる不安から同じ方法で仕事や家事をしなければならない儀式行為、不吉な数字や幸運な数字に強くこだわる数字へのこだわり、物の配置や対称性に一定のこだわりがある等です。
10歳~20歳代など比較的若い世代に発症することが多く、発症率も1~2%と珍しくない病気です。
原因
はっきりとした発症メカニズムは解明されていません。一方でうつ病や摂食障害などほかの精神疾患を併発していることが多く、何らかの精神的不調が背景に発症する可能性が示唆されています。元来まじめで完璧主義といった性格の人が発症しやすいのも特徴です。
治療
薬物療法とカウンセリングが有効です。
❶ 薬物療法
第一選択となるのは抗うつ薬(SSRI)となります。
強迫性障害の適応となるSSRIは何種類かあり、副作用などを確認しながら適切な薬剤と容量を調整します。
❷ カウンセリング
薬物療法と並行して行うことが望ましいアプローチです。症状の不合理性に関する理解を促し、行動修正をはかる認知行動療法や暴露療法など、安心した環境下で焦らずに行っていく事が重要です。
睡眠障害
睡眠障害とは昼間活動して夜間眠るというリズムがとれなくなり、日常生活に影響が出ている状態の総称です。
睡眠障害の中には、不眠症、過眠症、ナルコレプシー、隔日リズム睡眠覚醒障害、睡眠関連呼吸障害、睡眠随伴症候群などがあります。
日本人では5人に1人が睡眠に関して悩んでいるといった報告もあり、不眠症が一番多いと言われています。
❶ 不眠症
入眠困難や中途覚醒、早朝覚醒により日中眠気をきたすなど日常生活に支障が出る。
❷ 過眠症
夜間に十分に眠ったにも関わらず昼間に眠くなり居眠りをしてしまう。
❸ ナルコレプシー
過眠症の一種ですが、日中の強い眠気、情動脱力発作(興奮すると体の一部が脱力する)、睡眠麻痺(金縛り)、入眠時幻覚が特徴である。
これらの症状に心当たりがある場合、睡眠外来での診察をお勧めします。
❹ 睡眠関連呼吸障害
眠っている間に呼吸に異常が出て無呼吸となり、心身に影響がでる。
これらの症状に心当たりがある場合、睡眠外来での診察をお勧めします。
❺ むずむず脚症候群(下肢静止不能症候群)
下肢を中心にむずむずする、痛い、かゆい、皮膚に虫が這うような違和感等の不快な感覚が生じ、下肢を動かさずにはいられない衝動が伴います。
夕方から夜間の安静時の生じることが多いですが、日中の安静時にも症状が出ることもあります。
入眠困難や日中の眠気につながり生活に支障をきたすことがあります。
原因
❶ 不眠症
不眠症の多くは加齢が原因になるほか、喫煙やカフェインやアルコール摂取、ストレスや生活リズムの乱れなど生活習慣が影響する場合が多いです。
❷ 過眠症
過眠症の一種であるナルコレプシーは、覚醒維持を伴うオレキシン神経伝達の障害が原因であることが分かっています。しかし突発性過眠症の原因については遺伝的要素との関連が指摘されてはいますが、明確には分かっていません。
❸ 睡眠関連呼吸障害
睡眠関連呼吸障害については、閉塞性睡眠時無呼吸と中枢性睡眠時無呼吸があります。閉塞性睡眠時無呼吸の場合は、睡眠中に上気道が狭くなったり閉塞したりすることで発症します。原因として体重増加や舌が大きい、下顎が小さい、鼻中隔湾曲症などがあります。中枢性睡眠時無呼吸は呼吸中枢の以上により正常な呼吸運動が出来なくなり発症するものです。心不全や腎不全、脳梗塞や脳出血の後遺症などが発症しやすいと言われています。
❹ むずむず脚症候群
むずむず脚症候群については、脳内の神経伝達物質であるドパミンの機能異常が関与していると考えられています。明確に特定できない突発性と、二次性に分けられ、鉄欠乏性貧血、パーキンソン病、脊髄小脳変性症、ハンチントン病、多発性硬化症、関節リウマチ、シェーグレン症候群、糖尿病や甲状腺機能異常、腎不全、人工透析、慢性肝疾患、慢性閉塞性肺疾患なども原因となることがあります。当院では採血を施行し、貧血精査、血糖、甲状腺機能、肝腎機能などを評価してルールアウトを行います。
治療
ナルコレプシーや睡眠関連呼吸障害については、睡眠外来受診をお勧めしています。睡眠評価をする上で薬剤は中止して検査を行う場合があるため、当院受診する前に睡眠外来にて検査を行うことをお勧めしています。
当院では不眠症やむずむず脚症候群については、薬物療法と疾病教育を行っています
❶ 薬物療法
メラトニン受容体作動薬にて睡眠と覚醒のリズムを調節する薬剤があります。自然な眠りを促し、耐性や依存性が少ないのが特徴ですが、即効性が乏しいことや眠気が残ることや頭痛が出ることがあります。
オレキシン受容体拮抗薬は、脳の覚醒システムを抑えることで自然な睡眠を補助するものです。自然な眠りを促し、即効性もある程度あり、耐性や依存性も無いのが利点ですが、悪夢を見ることがあります。
GABA受容体作動薬は従来の多くの睡眠薬で、超短期作用型、短期作用型、中間作用型、長期作用型などの多くの種類があります。不眠のパターンによって選択できることや不安症状にも多少効果があるのが利点ですが、依存性や耐性が生じるため、長期に服用すると反跳性不眠といって薬を使わないと眠れなくなることがあります。過眠症がある場合は、覚醒を促す薬剤を使用することがありますが、ナレコレプシーに関しては睡眠外来にて検査をお勧めしています。
むずむず脚症候群については、当院では症状の程度を評価し、薬剤選択を行います。軽度であれば漢方(抑肝散)や抗てんかん薬(リボトリールやランドセン)、中等症レベル以上であれば、ガバペンチンエナカルビル(レグナイト)やロチゴチン(ニュープロパッチ)、プラミペキソール(ビ・シフロール)、ロピニール(レキップ)、重度や薬剤の効果が乏しい場合では、疼痛治療剤であるリリカカプセルやトラマドールを用いることがある。いずれの薬剤も副作用を慎重に評価して処方することが望ましいです。
❷ 疾病教育
まずはカフェインイン入り飲料やアルコール、たばこは不眠を引き起こすため、控えることが望ましいです。
ぬるめのお湯にゆっくり入り、しっかりクーリングすることや、就寝前にストレッチ体操すること、規則的な食事や就寝時間が大切です。
仕事やストレスにより隠した脳がなかなかリラックスできない場合は、スマホやテレビなどの視覚刺激を抑え、呼吸法やリラクゼーション法も有効です。
当院では体のケアで中枢神経の緊張や身体のこりをほぐすことでリラックスを促し、質の良い睡眠に促すこともご提案しています。